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   紅の幻影と紺の旋風〜その6〜



〜アムステラ前線基地・士官室〜

「隊長ぉ〜。威圧偵察隊、帰還しましたぜ」

部屋に居るのは4名。相変わらず規律無視な呑気口調のバドス、その脇で悔しげな表情で立つイェン、直立姿勢を取るルカス。そして、机に腰掛けた
隊長。しかし、バドスが報告を続けようとするのを遮って、隊長が言葉を放つ。

「よくやった。お前達の任務は成功だ」
「ほぉ、そうですかぃ」「・・・えっ?!」「あれで・・・良かったのですか?」
「うむ。被害状況は既に報告が来ている。だが、部品などを補充して機体を調整するだけの事。その程度なら、想定内だ」
「で、ですけど!」
「まぁ、落ち着け」

激昂しかけるイェンを手振りで抑え、隊長が言を続ける。

「今回の任務は、確かに圧勝出来ればそれに越した事は無い。しかしな、奴等に『事実』を伝える事が出来ればそれで良いのだ。後は、人的被害さえ
無ければ問題は無い。我等が持つ力を奴等に知らしめる事こそが、今回の威圧偵察の目的なのでな」
「相変わらず、人使いの上手ぇこって」「・・・?!」

バドスは隊長に向かってニヤリと笑いかけ、イェンとルカスは怪訝な顔をしつつ、その言葉の意味を考える。
一方、その頃。地球でも・・・


〜イギリス・アイルランド空軍・共同作戦室〜

イギリス・アイルランド空軍の士官達と、実際にアムステラ軍と対戦したヘンリー、シンシアが席に着いて居る。
そして部屋の一角にある大型モニターには、イギリス軍の戦術情報コンピュータ『マーリン』からの情報が映し出されている。

「Sir.本迎撃戦ニ於ケル、情報解析ガ終了致シマシタ。良イ知ラセト、悪イ知ラセガ有リマス。ドチラカラ先ニ報告致シマショウカ?!」
「(誰だ?! マーリンにこんな人格プログラムを組んだ奴は)・・・良い知らせから、聞こうか」
「Sir.撃墜サレタあいるらんど空軍ぱいろっと15名ハ全員、無事ニ救助サレマシタ」
「被害状況デスガ、ういんどすらっしゃーハ機体ニ歪ミガ発生。ソノ不具合ノ修復ガ完了スレバ、戦線ニ復帰デキマス」
「ふぇるぐすモ現在おーばーほーる中デスガ、コレラノ修復作業ハ、遅クトモ5日以内ニハ完了スル予定デス」
「では、悪い知らせとは何だ?」
「Sir.現在、もにたーニ表示シタ2機ハ、汎用機デス。少ナクトモ3機以上ハ存在スルモノト思ワレマス」
「・・・何だと?!」

モニターに映し出されたのは忌影と禍風。記録映像が編集され、忌影の腕を使う禍風や、その逆のシーン、そしてその両機の胴体部分の比較映像が
映し出されて居る。その拡大画面を色調変換して合成すると、2機の胴体は寸分違わぬ物と判明した!

「し、しかし・・・この2機に互換性があるだけでは・・・ないのか?!」
「Sir.ソノ推論ハ非論理的デス。用途ノ全ク違ウ2機同士デ互換性ヲ持タセテモ、利点ガ有リマセン」
「すると、手足や翼のパーツを換装する事で、多用途に使える機体・・・と、いう事ですね?!」
「Sir.ソウナリマス、へんりー少尉」
「そっ、それでは奴等はあんな機体をまだ何機も持って居ると言うのか?!」
「お言葉ですが中佐、あれだけの操縦技術の持ち主はそう多く無いでしょう」
「Sir.昨日交戦シタ者達ト同等以上ノ操縦技術ヲ持ツ者ガ存在スル確率ハ、3名以上96%、4名以上91%・・・」
「そ、そんなに居る確率が高いのか・・・んっ? しかし何故、3名から数える?!」
「Sir.『悪魔』ト『紫の蝶』ノぱいろっとノ行動ぱたーんヲ解析スルト、彼等トハ別人デス。カツ、彼等ヨリモ技量ハ上ト思ワレマス」
「そうなると、彼等の目的は・・・その事実を誇示する事、ですね」
「Sir.ソノ推論ガ正シイデショウ。次回、同条件デ交戦シタ場合、ういんどすらっしゃーノ勝率ハ82%、ふぇるぐすノ勝率ハ69%デス」
「マーリン、同じ条件ならそうかもしれないけど。彼は相当の曲者ですからね、次はもっと奇策を使って来るんじゃないかな?」
「・・・フェルグスの勝率だけど、もし勝っても機体の損害は大きいんじゃない?!」
「Sir.状況ノ設定マデ加味スルト、不確定要素ガ多スギマス。ふぇるぐすノ損害ニツイテハ・・・無傷デ勝利出来ル率ハ2%程度デス」
「厳しいわね・・・」


〜アムステラ前線基地・士官室〜

「・・・つまり、アタシ達が斬空や雲殻の性能を見せつければ、それで良かったって事ですか?!」
「確かに地球の連中の技術レベルは、一部の機体を除けば低い様でしたが・・・なるほど、そういう事ですか」
「ちょいと惜しいねぇ〜。そ・れ・と、俺達の腕前をキッチリ見せつけてやりゃあ良かったのよ」
「・・・兄貴、最初っからそのつもりだったね?!」
「当たりめぇだろ。圧勝しに行くつもりで仕掛けてくれなきゃな。手抜きされちゃあ困る」
「誰が手抜きするかぁ!」「でしたら・・・戦闘機のパイロットも・・・倒すべき、でしたか?!」
「いや。却って生かして置いた方が、我等の余裕を見せつける事になる。それにヒルデガード様の意向にも添うしな。良い判断だったぞ」
「その、何だ。おめーらは思う通りに動きゃ良いさ。隊長はそういう局面で使ってくれるからよ!」
「そういう事だ。任務完了。次の呼び出しまでの自由行動を認める。下がって良いぞ」
「了解っ!」「了解です!」

そして、イェンとルカスが退出した後。

「しっかし隊長・・・俺から言っといてなんですが。地球の連中も、こんな威圧程度で降伏するたぁ思えませんがねぇ〜」
「まぁ、な・・・今の戦略は、奴等の牙を磨いてやる様なものだしな。それに、本星からも不穏な動きがある。そちらも警戒せねばならん」
「本星のお偉いさんの動きねぇ〜、臭ぇ、臭ぇ。地球攻略軍は大体、ヒルデ様寄り連中やはぐれ者の寄せ集めですがねぇ〜、怪しい連中もちらほらと
混じってやがるし。何を仕掛けるつもりだか」
「だから、この部屋にも盗聴対策は取ってある。私には部下を無駄に死なせる趣味は無いからな、打てる布石は色々と打っておくさ」
「それでこそ隊長ってモンで。まっ、俺もてきとーに手伝わせて貰いますわ。真面目過ぎる奴が2人に増えましたんでねぇ〜」
「それは任せた。しかし何だな。任務を抜きにして、地球の連中に興味が湧いて来た処でな・・・この戦を長引かせたくは無いのだが、心の何処かで
戦が長引くのを嬉しく思う部分もあるのさ・・・ふふっ、可笑しいだろう?!」
「・・・いや、そいつぁ笑えやせんねぇ〜。実を言やぁ俺もそうなんでね」

静まりかえった士官室に、男2人の低い苦笑いがしばらく響き続けた・・・。
アムステラ軍の地球侵攻。この戦は、膠着戦の様相を呈して居る。未だ、終戦の兆し無し・・・。


The End