紅の幻影と紺の旋風〜その5〜



「これで、終わりだっ!」

フェルグスを包囲する忌影の幻影が一瞬、輝く。次の瞬間・・・忌影のクローが、フェルグスの腹部装甲を深々と貫いた!

「仕留め・・・抜け殻っ?!」

イェンの目の前でフェルグスが・・・いや、その装甲板が人の形を崩して落下してゆく。貫いたままの腹部装甲を振り捨て、忌影が構えを取った時!

「・・・貴女が仕掛けた瞬間、私も装甲を分離した」「ッ!!」

シンシアの声が背後で聞こえたのと同時に、弾かれた様に離れる忌影。だが遅い。背中に剣の一閃を喰らい、その翼が半ば断ち切られる。
フェルグスのアーマーパージ。それは、外部装甲を全て分離する事で更なる軽量・高速機動化を図る機能。だが、耐久性と武装が激減する諸刃の剣!

「は、はは・・・参ったわね、本当に。考えてる事が一緒じゃないの」

もう、浮いているだけで精一杯という状態の忌影。しかし苦笑しつつも尚、闘志を失わないイェン。

「こうなるとアタシが勝つには、後はアンタが仕掛ける瞬間に相打ちを狙うしか無い、かな?! 一撃でも当てれば、今のアンタは墜とせるからね!」
「・・・ん〜っ、それも悪かぁ無いけどよ。今度は俺にも闘(や)らせろや」
「・・・?!」「えっ? 兄貴?!」

そう。禍風が戻って来たのだ。離れて待機していた雲殻も、忌影の危機を見て急いで接近している。

「第一、機体もそろそろ限界だろ? 下がってろや、イェン。・・・しっかし、接近戦型かよ・・・ちょいとやりにくいねぇ」

そう言いながらも、ふいっと忌影の方に寄る禍風。何故か右手で左腕を握っている。

「・・・良い腕だな。少し借りるぜ」

そう言いざま自分の左腕を近寄って来た雲殻に放り投げ、忌影の左腕をもぎ取って自分の肩に付ける。

「ふむ・・・少し小さいが、まぁじきに慣れるだろう。それじゃ、選手交代の第二戦といくかぁ!」

装着した忌影の左腕で、にぎにぎと掌を開閉して感覚を確かめた後、フェルグスに向き直る禍風。
左腕を引いて構えを取り・・・フェルグスに向かって急速に突撃! 前進だけに関しては、忌影に匹敵する高速機動! しかも、急停止機能があるので
その高速を維持したままフェルグスに接近。左のヒートクローが唸りをあげて、フェルグスが居た空間を切り裂く!
・・・『居た』?! そう。フェルグスはとっくに禍風の背後に移動して、その双剣を振り下ろす構え!

「貰ったぁ! 『フリー・フォール』っ!!」

禍風の全身から力場が発生し、フェルグスを含む周囲を包み込む。その途端、フェルグスの動きが硬直する!
フェルグスに限らず、空戦型の機体はその機体を浮遊させるのに重力制御装置に依存している。それにより、飛行機では不可能な機動も可能となるが
裏を返せば、重力制御装置が無ければタダの鉄塊という事。『フリー・フォール』はまさに、その重力制御を妨害する機能なのだ!
もちろん禍風自身もその影響下にあるが、力場外の機体ならば問題無い。当然、雲殻の大出力ビーム砲はフェルグスを狙い、ビーム砲を発射!

バシュッ!

雲殻のビームは、大きく的を外した。横合いから放たれたビームキャノンが、雲殻を直撃したのだ。先程の戦闘で、雲殻の周囲に舞っていた浮遊物が
全く無い状態での直撃。装甲が厚い雲殻は大してダメージを受けては居ないが、それでも狙いを狂わせるには充分な威力だった。

「むっ、増援か?! 偏鏡符射出! 護鬼散布!」

雲殻のスカート部分から六角形の板状パーツが剥がれて飛んで行く。これが、ビーム反射鏡・偏鏡符。
同時に、スカート下部や腕部の隙間などから赤茶色の小さな塊が多数湧き出す。これが、多用途チャフ・護鬼。先程の戦闘でホーミングミサイルを誤誘導したり、ビームの威力を減退させたのはコレの機能によるものである。

「あ、あれって・・・兄貴?! もしかしてトドメ刺して来なかったワケ?!」

イェンが驚くのも当然だろう。バドスと対戦していた筈のウインドスラッシャーが、この場に駆けつけたのだから。
そう言いつつ禍風の左腕を装備した忌影が、その腕を構えるが・・・

「ちょ、兄貴っ! 何よ、コレ。残弾がほとんど無いじゃない?!」

その左腕から申し訳程度に発射されたホーミングミサイルがウインドスラッシャーを追うが、当然あっさり撃墜される。

「・・・あ〜、悪ぃ。さっき『デス・トラップ』で派手に使っちまってな」

フェルグスと共に自由落下している禍風から、呑気な返答が戻って来る。続けて、今度はウインドスラッシャーに向かって共通回線で問いかける。

「こら、そこのヒコーキ野郎っ! さっきの攻撃をどうやって避けやがった?!」
「・・・所詮、自動操縦ですからね。パターンさえ読めれば、避けるのは簡単ですよ」
「事も無げに言ぃやがるねぇ〜。最後に手ぇ抜いたのは悪かったが、アレを避けられる奴ぁそうそう居ないぜ?!」

ヘンリーの返答を、感嘆を通り越した呆れの口調で切り返すバドス。しかし、口調は軽いが別に遊んで居る訳では無い。むしろ逆。
『フリー・フォール』の維持に機能の大半を喰われ、自由落下しつつも姿勢制御ブースターでフェルグスに接近。何と、近接戦を仕掛けている!
左のヒートクローでフェルグスを引き裂きに掛かるが、フェルグスも不自由な体勢を何とか調整しつつ、双剣で迎撃している。

「凄い、あの2人・・・」
「落ちながら闘って居る・・・」

ウインドスラッシャーvs雲殻&忌影も膠着状態に。互いに有効打が入らず、思わず下で繰り広げられる戦闘に目が行く始末。
そしてこの状況を打破すべく、バドスが一つの策を提案する。

「こうなったら、とっておきの手を使うしか無ぇな」
「とっておきの手? それって何よ、兄貴?!」
「幸い、ヒコーキ野郎は人型になってるし、足止めの護鬼がばら撒かれてる今がチャンスだ」
「どうするんです?!」
「こっちも、足を使うんだよ」
「足ぃ?!」「足を、ですか?!」
「逃げるんだよぉ!」
「うわぁあっ?!」「何考えてんだ、馬鹿兄貴〜っ!」

突然、『フリー・フォール』を解除した禍風が急速離脱。フェルグスとウインドスラッシャーが反応する間を与えず、雲殻と忌影の腕をひっ掴み、最大速度で遁走する。
それと同時に護鬼が妨害電波を発生させ、レーダーの機能を狂わせる。これではたとえ、追撃するつもりでも出鼻を挫かれて居ただろう。

「追撃は・・・出来ませんね、これでは」
「フェルグスも稼働限界に近いから。下手に追うと返り討ちになるかも・・・」

結果的には両者、痛み分けの感がする一連の戦闘。しかし、そこで得たモノはある。それは・・・

戻る  TO BE CONTINUED・・・