紅の幻影と紺の旋風〜その4〜



〜イギリス上空〜

「・・・やれやれ、ツイて無ぇよな」

マッハ3.5の猛スピードで飛行する禍風のコックピットで、バドスは呑気に呟いていた。
その後方から迫るのは、イギリス空軍の誇る『世界最速』の機体・ウインドスラッシャー。この速度にも関わらず、距離が縮まる。
禍風を追うウインドスラッシャーからビーム砲がまた発射されたが、これは何とか避けて擦過傷で済ませる。
もちろん、ただ追われて居るだけでは無い。反撃のフロートマイン(浮遊機雷)やホーミングミサイルをばら撒いて居るが、ウインドスラッシャーはその速度を落とす事無く、それらを全て回避・撃破して居るのだ。

「ったく、ツイて無ぇよなぁ〜」

禍風が更に加速。マッハ3.6…3.7…3.8…最大戦速! しかし、ウインドスラッシャーの加速は更にそれを凌駕する!
相対速度の関係で、互いにはそう大きく動いてる様には見えないが、周囲の景色は既に線。外部から見る者は一瞬で、この2機を見失うだろう。
だが、超高速で飛行する両機の距離が少しずつ縮まったその時!

「っ! き、消えた?!」

ウインドスラッシャーの若き天才パイロット、ヘンリーの驚愕の声がコックピット内に木霊する。
その次の瞬間、急制動を掛けつつ戦闘機型から人型へと変形したウインドスラッシャーが前方にバルカン砲を放ち、そこで撃たれた『何か』は小爆発を起こす。

「よりによって、この俺と禍風を相手にするたぁな。ツイて無ぇ奴。・・・まっ、今のに反応してんのは誉めてやるが、ね」

今、禍風が取った機動は。言葉にすれば実に簡単。
前方に多数のフロートマインを射出しつつ、自機はその場に『留まる』。ウインドスラッシャーは停止した禍風を追い抜いてしまっただけである。
ただ、超音速で移動するものがその場に急停止(もうこれは、急制動などという生易しいモノでは無い)するには、強力な重力制御装置が必要。
つまり禍風が、それが可能なだけの重力制御装置を搭載している、という事を意味する。

「喰らってくたばりな・・・『デス・トラップ』」

禍風の翼や太い両腕から、多数のフロートマイン、ホーミングミサイル、そして自律式のビット(小型浮遊砲)が射出され、ウインドスラッシャーを包囲する。そして、減速した(でないと、先程潰した機雷にやられた筈)ウインドスラッシャーは、格好の的!

「もうちょい遊んでやっても良いんだが、イェン達も気になるんでなぁ〜。まっ、ツイて無かったと思って諦めな」

そう言うなり、その場でくるりと向きを変えて、超高速で飛び去る禍風。その背後で早速、爆発音が響く・・・。


一方その頃。魔剣の騎士vs紅の毒蛾の闘いは・・・

〜アイルランド上空〜

「・・・速いっ! 空中舞踏でも振り切れない?!」
「くっ・・・速い! 忌影の残影機動ですら追いつけないなんて!」

紺色の旋風と紅色の影が空中で激しくぶつかり合う。
忌影が放つビームをフェルグスが肩のパネルで弾いたかと思えば、フェルグスが振り下ろす高周波振動ソードを忌影はヒートクローで受け止める。
そして互いに隙を窺いつつ旋回・・・突然、互いに姿が消える! 目にも留まらぬ急降下!!

「・・・えっ?!」
「・・・って。考えてる事、一緒じゃない?!」

そう。2機とも得意の機動、急降下からの急上昇攻撃を仕掛けようとしたのだ。しかし、互いに急降下すれば当然、相対的な位置は一緒になる。
双方が、思わず動きを止めたのも無理は無い。だが、一瞬早く立ち直ったイェンが先に動き、忌影のヒートクローがフェルグスの胸板を薙ぎ払う。
しかし浅い。今の一撃は、フェルグスの胸部装甲板に深々と爪痕を残したに過ぎなかった。

「チィッ! 後少し、少しだけ速さが足りない!・・・後が無いけどあの手を使うしか無い、か」

イェンがそう考えてる間にも、目まぐるしい高速機動の闘いは続いている。だが・・・均衡は崩れた!
ビームキャノンを握った紅色の右腕が、宙を舞ったのである。

「・・・いけるっ?!」
「チッ・・・しくじったわね」

高速機動の連続稼働が限界に来たのか。どちらからともなく、空中に停止して対峙する。
一方は、右腕を半ば失った紅い機体。もう一方は、胸板と他にも数ヶ所に爪痕を残す紺色の機体。

「まさか忌影が・・・アタシが追いつけない速さとはね」
「・・・」
「だけどさ、用意は出来たよ」
「・・・?」
「言い換えれば、ビームキャノンと腕1本分、軽くなったって事さ。これならアンタの速さにもついて行けるんじゃないかな?!」
「・・・!!」
(「そして、リミッターを解除すれば。その速度を凌駕するっ!」)
「行くよっ!!」

イェンの叫びと共に右腕の残骸を切り離した忌影が、幻影と化してフェルグスを包囲する。残影機動を超える、超絶機動の発動!

Phantom Move
幻影機動


隻腕の忌影が構えるのは、唯一の武器となった左手のヒートクロー。
傷だらけのフェルグスが構えるのは、二振りの高周波振動ロングソード。
勝利を掴むのは、果たして・・・紅の毒蛾か? それとも、魔剣の騎士か?!

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