紅の幻影と紺の旋風〜その2〜



〜アムステラ軍前線基地・戦闘訓練室〜

「くっそ〜っ、また負けたぁ!!」

戦闘シミュレーターから、若い娘の元気な叫びが響く。乱暴に操作ユニットの扉を跳ね上げて出て来たのは、タンクトップにショートパンツというスポーティな格好の娘。ショートカットの髪を黄色いヘアバンドでまとめた、いかにも『元気印』といった感じの娘である。

「でも、今のも危なかったわよ。アタシが右腕を切り離さなかったら、ま〜たドリルの餌食になるトコだったわ」
「そう、それ! あそこで腕を切り離すなんて、有り?!」
「甘い、甘い。うちの隊長はもっとえげつない手を使っといて『こういう戦法もある』な〜んて事を平気で言うんだから」

そう言って笑いながら隣の操作ユニットから出てきたのは、軍の略装をぞんざいに羽織った紅毛の娘。見た処、ヘアバンドの娘よりも歳上の様だが
互いの雰囲気が似ているので、上下関係というよりも仲間同士といった空気が漂っている。

「って言うかさ・・・むしろアタシは空中で連続蹴りが出せるアンタにこそ、『そんなの有り?!』って言いたいんだけど?!」
「鍛えてますから!」(ビシィ!)
「あっ、そう・・・」(ふぅ〜っ)

ヘアバンド娘−エウリア−の能天気な返答とポーズに、呆れ(と、一片の感嘆が混じった)溜息を漏らす紅毛の娘−イェン−。
それはそうだろう。支えの無い空中で攻撃を放つ際、機体の体勢を保つバランサーの性能もさることながら、パイロットの平衡感覚も要求される。
ただでさえ体勢が崩れやすいのが難点の蹴り技を、それも連続で放つとなれば、どれだけ絶妙な操作を要求されるか判ろうというもの。
それを(鍛えてるとはいえ)天性の才能であっさりやってのけた上に、自分ではその凄さに気付いて無い辺り、エウリアらしいと言えば言えるか。

「それにしても、しばらく会わなかった間に随分と腕を上げたわねぇ」
「イェン姉ちゃんこそ。今のあたしなら、もうちょっとは勝てると思ったんだけどなぁ〜!」
「甘い、甘い。確かに高速突進とかの切れ味は上がってるけどね。外した時の隙は相変わらずだから。まぁ、だからコンビネーションで来た時には怖いんだけどね・・・っと言えば、今日もステラは任務があるって? 偵察任務かな?!」
「んっ?! う・・・うん、偵察。偵察だね」
「そっか・・・残念。(んっ? 妙ね。何か隠してる?!)」
「そ、そうだ。偵察と言えばイェン姉ちゃんも威圧偵察に行くんだって?!」
「まぁね。今まで現地の下調べをしてたから。そろそろ実行する予定よ。(話を逸らしたわね。まぁ、いずれじっくり聞くとして・・・)」

「よぅっ! 相っ変わらず元気があっても色気は無ぇのな、お前ぇら」
「・・・兄貴も、相っ変わらず口が悪いわねぇ」
「誰が、色気の無いガキだぁっ!」

そこに茶々を入れながら来たのはバドス。例によって不精ったらしい格好で、上官らしからぬ上官としてはガミジン中尉やグラナ大尉に匹敵する。
そして普段の言動もそれに見合ったものらしく、上官&年上の相手であるにも関わらず、問答無用でエウリアの右回し蹴りがバドスの頭を狙う。

「おっと!」

それでも、仮にも特殊部隊所属のバドス。手加減気味とはいえ、エウリアの回し蹴り『白銀の右』を寸前でしゃがんで避ける・・・が、その後の余計な一言が致命傷だった。

「・・・前言撤回。良ぉく育ってるじゃねぇの〜」
「こ、このド助平っ!!」 「んがっ!!」

エウリアの高々と振り上げられた右足が、引き戻し際に強烈な踵落しとなってバドスの脳天を直撃する。

「・・・っ痛ぇ〜。俺の頭が悪くなったらどうする気よ?!」
「大丈夫よ、兄貴。それ以上悪くなりっこないから」

頭を抱えて大袈裟にぼやくバドスに、呆れ顔でツッコミを入れるイェン。

「で? もしかして威圧偵察の準備が出来たの?!」
「おっ、察しが良いな。その通り。今回は俺とお前、それと後詰めにルカスの3名で行く事になった」
「ルカス? えぇと・・・」
「水鋼獣のルカスさ。うちの部隊は兼任が多いって前にも言ったろ? 特に、空戦関係の人手が足りないのさ。主力は影狼部隊と言ってもやはりな、
空戦力も無いと何かと不便なんでなぁ〜」
「なるほどね。じゃ、行こうか」


エウリアに別れを告げ、格納庫に向かう2人。
そこには既に、がっしりした体格の生真面目そうな若い男−ルカス−と、発進準備が整っている3機の機体が2人を待って居た。
1機は紅色の斬空二式・忌影。背に四枚の翼を持つ人間型の機体である。
1機は深緑色。人間型だが、四つん這いの状態で待機して居る。何かを仕込んである太い両腕とロケットブースターと同化した両足を持ち、甲虫の背中を思わせる分厚い翼を持つ。しかし、この異形にも関わらず。これが忌影の同系統機、斬空一式改・禍風である。
最後の1機は脚が無いのに忌影よりも一回り以上大きい機体。両肩後部に大出力のビーム砲を装備している。

「・・・って、雲殻?! まさかこんな鈍足で来るつもり?!」
「自分は後詰めですから。同行するだけならコイツでも何とかなりますよ」
「と、言う訳だ。奴等の制空圏も大体掴んだからな、どこでちょっかいを掛ければ出てくるかも判った。後は、叩きのめしてやるだけさぁ」
「なるほどね」
「今回の目標のうち一機は以前、紫艶蝶に撃墜されてます。ですが先日、戦線復帰したとの情報がありました」
「紫艶蝶に?! ・・・それが同じ奴なら手強いわね、きっと」

イェンの顔が引き締まる。データとして見ただけの敵機。だが、それと実際に交戦する事を思い・・・唇には薄く笑みが浮かぶ。
その横でバドスはニヤリと笑い、威圧偵察の開始を宣言する。

「それじゃあ、行くかぁ!」
「了解っ!」「了解です!」


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