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Elegant Sword.5





エドウィン・ランカスター

 エドウィン・ランカスターの入院はアムステラ特機対策班に衝撃を与えた。敵軍の情報を得てこれからその秘密基地を炙り出そうというときに、主力の一角ランカスターが欠けてしまったのだから。それも快王と喧嘩して怪我をしたというのだから、周囲は呆れざるを得ない。
 知らせを受けたネスターは、最初何が起きたかと驚いたが、パンから詳しい事情を聞くとただ呆気に取られた。しばらく天を仰いだ後、ようやく言葉を搾り出す。

「この大事な時期に何を考えているのですか……。貴女が付いていながら」
「申し訳ないネスター殿……」

 自分のために戦ってくれるから止められなかった。とはさすがに言わない。ネスターにしてみれば、いくら部隊を強化しようと務めても予期せぬアクシデントに潰される、遣る瀬無い気持ちだろうから。

「上層部には私から報告しておきます。大尉は作戦の準備のほうを」
「そうさせてもらいます。ただ、少佐が戦いに赴けない以上、我が隊は後方に回されるでしょうが」
「やはりそうなりますか……」

 特機討伐任務は佳境に入っていた。捕虜から尋問して得た情報と、地球軍の行動をサーチした結果、基地の在り処が大分絞られてきたのだ。ただし、正確な位置の割り出しにはまだ時間がかかりそうだ。もたもたしていれば、標的が逃げてしまう恐れがある。
 そこでネスターは、新たな策を上層部に進言してあった。




 二日後、臨戦体制が整ったアムステラ軍に急報が届く。

「ネスターだ。……フム、分かった、あとは指示通りにやってくれ」
「ネスター殿、捕虜が脱走したというのは本当ですか!?」
「パン殿、もう聞いていましたか」

 捕虜脱走の知らせを受け、基地内は急に慌しくなった。

「何たることだっ、せっかく俺たちの捕らえた捕虜が!」
「見張りは何をしていたのだ! 成敗してくれる!」
「落ち着いてください、事情を説明しますから」

 これこそがネスターの策だった。捕虜を敢えて逃がし、行方を追跡することで秘密基地の所在を割り出す。
 捕虜を移送するという名目で彼らを外に出し、脱走しやすい状況を作る。彼らは秘密基地が割り出される可能性を存分に示唆されていたため、焦っていた。だが、同時にアムステラ軍が出撃準備が整っていないことを知りえた(ネスターの指示でそう装っていただけだが)。
 彼らは目の前に脱出の好機が来ると、その魅力に耐え切れなくなり、トランスポーターを奪って逃走した。発信機が取り付けられていること、アムステラ軍がすぐにでも出撃できることを知らぬまま。

(大胆なことも考えられる人だ)

 パンはフランダルのような策略家の側にいたので、その思考法を多少なりと学んでいた。そのパンから見てネスターはまた一味違う策士と言える。フランダルは大局を有利に運ぶため、軍隊行動の補助的役割として策を散りばめる傾向にあった。その思考は深く、重い。
 それに対してネスターは、矢継ぎ早に新たな計略を練り、そのどれもが辛辣なまでの鋭さを持っている。策謀は彼の愛用する刀であり、作品のようですらあった。

「ではパン殿。すぐに出撃しなければなりませんが、少佐には」
「伝えないでおきましょう。我々は予備隊ですし、あの人の性格なら戦うと言って聞かないでしょうから」
「でしょうな……」

 その光景はネスターにも容易に想像できた。

「ところで、貴女の師匠が来ていると伺っていますが?」
「あの方は戦争に加わりたがるお人でもありませんから。出られないでしょう」




 アムステラ軍が出撃する。ランカスター隊はパンとネスターが指揮を分担して作戦に加わった。





 東ヨーロッパの山奥。地底深くにその基地はあった。

「大変だドクター・マッコイン! 地上でアムステラが基地を取り囲みつつあるぞ!!」
「……」

 露出の高い服装に白衣を着たその科学者は、無言のまま、さも不思議そうに首をかしげた。その仕草は愛らしく、また妖しくもあった。報告に来た士官は思わずその肢体に目がいってしまう。

「どういうことかしらね、見つかったのかしら?」
「そうとしか思えません。ですが、予想よりも遥かに早い。まだ物資の運び出しも半分しか済んでいないのに」
「あなたたち軍隊がが余計なことするからよ」

 士官は恐縮する他無い。マッコインが開発したスーパーロボットが活躍し始めた陰で、彼らの存在感は甚だ薄くなりそうだった。その焦りから部隊を出撃させたが、それが返って情報を敵に与えてしまったようだ。

「それは申し訳なく思っていますが……」
「中尉殿、ドクター! 敵軍から脱出してきたという兵士が通信を求めております!」
「何だと、そいつが敵を引き込んだか!」
「役立たずさんは撃ち落しちゃいなさい」
「そんなことをすれば完璧に基地が見つかります!」
「もう遅かれ早かれ見つかるでしょう」

 アムステラ軍がこの基地を目指しているのはすでに明らかなため、マッコインの言うとおりだった。

「ドクター……自信がおありで?」
「もう私の自慢の子供は戦えますわ。アムステラの羽虫さんたちを丁重に迎えて差し上げましょう」
「おおぉ……やってくれますか!」




 アムステラの機動部隊が展開していく。その様は戦術シミュレーターでリアルタイムに把握できるようになっている。各部隊、偵察部隊から逐一送信される情報をコンピュータが整理し、立体映像にそれを映し、敵味方の状況を詳細に知ることができる。その情報量・処理速度は地球のそれを遥かに上回り、両軍の戦力差を広げる一因となっている。

「発信機の付いたトランスポーターが撃墜されました」
「もう遅い。敵の基地は近いぞ、地表を隈なく調べろ。必ず何かがあるはずだ」

 指揮官の指示で高機動部隊が円を描くように山肌を進む。その包囲は徐々に狭まり……

「地表に動きあり、地球の機動兵器が現れました!」
「出たな、空戦部隊で爆撃を始めろ! その後に陸戦部隊で制圧する!!」

 指揮官の繰り出す命令とともに、雲霞のごとくアムステラの操兵が動き出す。
 その様子をランカスター隊は、ただ見ていることしかできなかった。

「パン様、暇です」
「警戒を怠るな」
「そうは言いましても。我々が炙り出す機会を作ったのに仕上げは他人任せなんて、ちょっと悔しいですよ」
「言うな、仕方のないことだ」

 山を越えた向こうでは激闘が始まっている。そこから届く戦況報告を聞いていると体がウズウズしてくる。

「味方が勝つことを祈っていよう」

 それだけ言ってパンは押し黙った。悔しいのは一緒だ。ただ味方が敗れて出番が回ってくる、そういうことは望むまい。



 しばらくして新たな報告が入った。

『空戦型羅甲隊、被害甚大! 爆撃は失敗しました、敵軍はいまだ健在!』
「爆撃失敗だと……?」

 意外な報告にネスターが唸る。作戦の遂行を焦るあまり、特機の持つ特殊な能力への対策を半端なままにしたことが響いたようだ。

「前線から詳しい情報は無いか? 敵の能力を解明しなければ被害が出る一方だ」
『それは……分かりません』
「何が起こったかだけでもいい。強力な対空兵器があるのか?」
『それが、敵基地上空に達した空戦羅甲が急に応答しなくなり、それから間もなく勝手に墜落したのです』
「……何だと?」

 不可解な状況に司令部は浮き足立ち、それに拍車をかけるような事態が。
 地面が低い唸りとともに口を開き、明らかな人造物が露出。地球人の秘密基地だ。昇降機が稼動して見たことのないマシンが姿を見せる。

「あれが地球の特機か!」
「奇妙な面してやがる……」

 ずんぐりとした手足、頭。背中には謎のバインダー、下腹部が幅広で重厚な――あるいは鈍重な趣だが、この機体が多くの味方を倒した可能性が高い。それを考えるとパイロットたちは思わず息を呑んだ。
 そこに指揮官たちの発破がかかる。

「あれこそ我らの憎き敵だ、奴を倒して功績とせよ!!」
「お、おおおおおぅ!」
「羅甲小隊前進、砲戦型羅甲は後方支援。第三波も前に出られるようにしておけ!」

 地球軍は特機がいるが、その他の機動兵器はまだ展開を始めていない。例え数があったとしても、地球のロボットと操兵の性能、パイロットの練度には自ずと開きがある。恐れることなど無い。
 アムステラ軍の総攻撃が始まった。敵を銃火で焼き尽くすべく、彼らを足元に跪かせるべく、鋼の獣たちが進む。



「ドクター、やれるのでしょうな?」
「今の哀れな人たちを見たでしょう。システムはとても安定しているわ」
「では我々もすぐに援護します」
「期待せずに待っているわ。さぁて、来なさいお猿さんたち。私の可愛い“サン・クピド”が貴方たちを昇天させてあげるわ」

 コックピットに収まったマッコインには、怪しげな器材から伸びる配線が体中を巡っている。
 コンソールの上で撫でるように指を走らせ、機体の出力を調整。そして、“それは始まった”。



 「敵と接触」の報から間もなく、「前線がおかしい」という報が届く。錯綜した状況を何とか把握しようと、ネスターは前線との通信量を増やして対応した。そうしている間に今度は「前線が崩壊しつつある」という報告が入り、ランカスター隊は戦慄を覚えた。
 何が起こっているのか? 分からないことほど恐怖を掻き立てる。

『大尉、どうなっているのです?』
「分からない……。臨戦体勢だけは崩すな」
『司令部よりランカスター隊へ。前線が酷く混乱しているため司令部を後方に下げる。ランカスター隊は支援せよ』
「了解!」

(もう司令部にまで攻撃が及んでいるのか?)

 ネスターとパンはすぐさま部隊を前進させた。その先では予想もしないことが起きていた。

『は、ははぁぁぁ、くっ……!』
『何をしている、攻撃……くっはぁ!』

 パンは抵抗もできずに叩き潰されていく羅甲を目の当たりにした。敵には変わった動きが無い。アムステラ軍がまるで何かに憑かれたように、敵前で立ち止まっては直撃を受けていく。

「ネスター殿、あれは……一体何が!?」
「……」
「ネスター殿?」
「うっ、ちょっとぼうっとしていました」
「……!?」

 パンが異常に気づく。八旗兵たちやランカスター隊の兵士たちまでが、敵に近づいてから動きが鈍くなっているのだ。
 敵軍の後方に一回り巨大な、そして見たことの無いロボットがいる。それは前に出る気配がなく、戦いには積極的に加わらない。それでも形勢は地球軍が圧倒的だ。
 これは……物理的な能力じゃない。もっと別の。

「貴様、一体何をしている!? 何者なのだ!?」
「うふふ、新手ね。貴方たちも食らいなさい、私のテンプテーション・ウェーブをっ!!」

 異様の特機――サン・クピド――から、何かが放たれた。それが何なのかは見えないし分からない。だが、明らかに変化が起きた。
 パンは戦闘中だというのに、急に妖しい気分が沸いてきた。何を考えているのかと自分を叱るが止まらない。そして周りの八旗兵は完全に動きが止まっていた。

「パン様……これは、はふぅ!」
「何してるお前ら!?」

 サン・クピドから放たれるのはマイクロウェーブの類だ。だがそれに精神感応装置を連結し、能力者のフェロモンを乗せて放出することで、周囲の人間は“エクスタシーしてしまうのだ!!”
 これでは戦闘どころではない。真面目一徹のネスターでさえこの攻撃で妄想に襲われていた。一方、これを味方に向かって微弱に照射すれば、士気は高まり、戦局を一挙に覆すことも可能となる。地球・アムステラの双方に一騎当千のロボットは数あれど、サン・クピドは対群戦略型スーパーロボットというまったく新しいジャンルの特機なのである。

「くはぁっ……!」
「うっ……」

 思わず達してしまった兵士たちは次の瞬間、ブレードで頭部を割られ、鉛玉で体を貫かれていた。駆けつけたランカスター隊の第一線は瞬く間に崩壊する。

(負ける……!)

 パンとネスターは同じ答えに到達した。今の友軍に、この手の攻勢に耐えられる者はいない。数と編成が頼みだったアムステラ軍はその優位を無力化され、最早打つ手が無くなっていた。

「ネスター殿、全軍の状況は?」
「う……すでに半数が破られたか、危機的状況です。司令部のある陸上艦もまだ撤退できていません」
「……私たちが殿軍を務めますから、部隊を撤収させてください。まともに戦えるのは私ぐらいのようですから」
「しかしそれは……!」

 敵の能力が判明した以上、対策を練れば打倒も不可能じゃない。だがそのためには、誰かがここから生きて返らねばならない。パンはその希望を託そうとし、ネスターもその理屈は分かっている。だがどちらも茨の道。
 ましてネスターも男児である。パンを残して逃げることは承服できなかった。

「よしてください、貴方を置いて逃げれば少佐に会わせる顔がありません!」
「エド様か……あの人が来ていなくて良かった……」

 この敵は感度のいいエドには相性が悪すぎた。焔伯との戦いで怪我をしたことが、返って良い方向に働いたのは皮肉である。

 言い争っているうちに敵が近づいてきた。部隊の再編成は一向に進まず、この波は止められそうに無い。
 覚悟を決める時が来たようだ。

「頼みます、ネスター殿!!」

 パンが絶璃で一つ飛び、敵中に踊りこんだ。獲物を右に左になぎ払い敵ロボットを駆逐していく。敵部隊が一瞬止まった。
 だがそれも束の間、地球軍が押し返す。パンを包囲しようと両翼の4、5型が駆け抜ける。それを無視してパンは正面から突き進んだ。一機に強烈な一撃を浴びせ倒すと、次の標的に向かう。一見取り囲まれつつあるが、地球軍は味方に弾が当たることを恐れ接近戦でしか戦えない。パンにとって都合のいい局面となっていた。
 そうしている内に、ネスターが女性パイロットを掻き集めて一軍を編成し、地球軍に叩き付けた。数で負けていようと、敵の士気が高かろうと、まともにぶつかればアムステラが負ける相手ではない。縦横無尽に駆け回るパンを圧死させないよう、ネスターが機動部隊で敵全体を圧迫する。その様はかみ合った歯車のように、はまったパズルのピースのようにマッチし、当の本人たちですら驚くほどだ。


 それを黙ってみている道理は地球人に無い。

「調子に乗らないでよね!」

 マッコインはしばらく動きを休止していたが、その間に貯まったエネルギーを一挙に開放し、最高出力のテンプテーション・ウェーブを浴びせかけた。見境無しの照射によって地球軍兵士まで巻き込まれたが、効果は絶大だ。パンたちは急に戦意が失せ、その場に崩れ落ちた。

「私がこんなものに……!」

 身動きの取れないアムステラ軍に、地球軍がウェーブの照射を避けて遠巻きに構える。その照準がパンたちを捉え、トリガーに指が。


「エド様、申し訳ありません……」






「そこまでにしておくんだな」




 エドウィン・ランカスターは怒っていた。彼を置き去りにし、黙って戦いに臨んだ部下たちに。

 エドウィン・ランカスターは憤っていた。彼の部下たちを可愛がってくれた地球軍に。

 エドウィン・ランカスターは小高い丘に立っていた。彼の愛機・陵鷹と共に。
 突然の乱入者に戦場の誰もが驚かされた。増援の出現に――在り有べからざる来援者に。

「エド様どうして!?」
「お前らこそ何故俺様に黙っていた? 俺様がこの程度の怪我で根を上げると思ってたか!?」

「あらあら、またお仲間が増えたのね。それも殿方とお見受けするわ」
「フン、このけったいなのが地球の秘密兵器か。思ってたよりも大したこと無さそうだな」
「何も知らない坊やね、すぐに思い知らせてあげるわ」
「思い知るのは貴様の方だ! 俺様の部下たちの落とし前、たっぷりとつけさせてもらうぜ!!!」

 陵鷹がジャンプして、敵の前面に舞い降りた。地球軍は慌てず、防御体制で迎える。迎撃はマッコインに任せるという信頼から来る行動だ。

「貴方も私の虜になりなさぁい!!」

 陵鷹に向けて撒き散らされるテンプテーション・ウェーブ。まともな男でも簡単に気を乱される通常出力を遥かに上回る量で、マッコインはフェロモンを込めた。

 直撃を受けたエドは    とてつもない 吐 き 気 に 襲 わ れ た !!

「おぶ、うげぇぇぇっ!」

 激しく嘔吐しそうになったが耐える。パンとネスターは時を忘れてエドを見守っていたが、どうも様子が違う。

「吐きそぅ……。だが……『やはりな』……!!」

 確信に満ちた声音。不適に光る瞳。確信に溢れていた。
 サン・クピドを指差してエドは宣言する。




「 お前は『男』だ!! 」




 ネスターは指揮車両内で豪快にゲロを吐いた。八旗兵はマスクの中にゲロを吐いた。男たちの抱いた妄想が苛粒子砲で焼き尽くされた瞬間だった。
 一方先程まで健気に戦っていた女性パイロットたちは、急にマッコインのフェロモンに当てられてヘブン状態に陥っていた。

「エド……さむぁ……。それ本当ですか……?」
「俺様のレーダーにかからぬ女はこの世にいない。現実を受け止めろ八旗兵」
「げぼばっ…………ガクッ」

 そして地球軍兵士一同は――

「ドクター、あんた男だったのか!?」
「あの夜の出来事は何だったんだ!? 嘘だと言ってくれ!!」

 糾弾の的となったマッコインは、務めて冷静に答えた。

「何を言っているの貴方たち。
  こんなにキレイな女がいるわけ無いじゃなぁい!!」

「うぐああああああぁぁぁっ!」

 地球軍の戦意は一陣の風と共に消え去った。

「エド様!!」
「行くぜお前らっ!!」




 陵鷹のレール砲が火を噴いた。混乱している地球軍の陣容に風穴が開く。それでも彼らは気を取り直し、目の前の脅威に対して必死に反撃した。集団で陵鷹に射撃を加え始めたその刹那、背後から飛んだ銃弾が4型の胴を貫く。

「後ろから……!?」
「狙撃だ、密集するな!!」

 アムステラ軍の狙撃に地球軍が浮き足立つ。前からは陵鷹が来ておりまさに挟み撃ち。
 散会した地球軍のスペースを埋めるように、黒い影が戦場に躍りこむ。それは一体の狙撃型羅甲――

「主行くところに執事在り」

 それだけ言うと、老人はハンドガンを両手に持ち、敵も見ずにトリガーを引く。一機、二機。急所を完璧に撃ち抜かれたロボットたちはそれだけで沈黙した。最初の狙撃は部下に任せ、散開した敵を各個撃破する執事の早業である。二段構えの状況変化に地球軍の対応は後手どころの遅れではない。ボロボロになっていたランカスター隊の前から敵の姿が消え去った。

「さすが執事だぜ、いい所で来る!」
「ほっほっ、これはほんの肩慣らし。ここからが本番でございます」
「言ってくれるぜ!」

 陵鷹が暴走する戦車のように、敵中へ突っ込んだ。砲戦機である陵鷹が照準も合わせずに火気を乱射すると、体勢の整わない地球軍は蜘蛛の子を散らすように逃げ散る。だが元々狭い山間だ、押し合って転び、躓き、混乱が拡大していく。
 それでも中には組織立った行動を取れる者たちがいた。彼らは陵鷹の正面に回ればやられると判断し、死に物狂いで側背へと回り込んだが、そこには――

「エド様の背中は私が守る!」

 パンと八旗兵が立ちふさがっていた。

「行くぞう!!」

 エドが切り崩した敵陣を八旗兵が更に寸断していく。方々で孤立した地球のロボットは、更に後方から押し寄せるランカスター羅甲隊によって止めを刺された。近づけば八旗兵、離れれば執事たち。たった一部隊の突撃によって地球軍が壊乱していく。

(彼が戦場に立てば劇場のようになる)

 ネスターは呆れるやら驚くやら、エドの存在がもう理解できなくなっていた。
 戦いは数だ。古今の戦史がそれを如実に物語る。しかしごく稀に、たった一人の人間が他の大勢を動かし、奮い立たせ、常識では在り得ない事跡を巻き起こす。小規模ながらエドはそれをやってのけた。

「くそっ、覚えてらっしゃい!」
「待て逃がすかよ!」

 マッコインが戦場から離脱を図ると、それを追いかけてエドが全速力で飛ぶ。結果的に孤立する形となった。

(と思ったらこれだ……)

 逃げるマッコインの背中に照準を合わせ、トリガーを引く。だが弾が出ない。

「もう弾切れかよ!?」

 途端にエドは窮地に立った。一時にエネルギーも使いすぎたため攻撃手段がわずかな火器のみとなる。それを幸いとマッコインは逃げ、その背中を守って5型が立ちふさがる。

「パン!」
「お側に!!」
「狙いは分かるな?」
「お任せを!!」

 わずかなやり取りの後、陵鷹は再び突進。パンが絶璃で追いすがり背後に隠れる格好になった。敵の銃弾は陵鷹を襲うが物ともしない。
 敵の目前まで来たその時、絶璃が陵鷹の肩に飛び乗った。ほぼ間を置かず、陵鷹がスラスターを全開にして、敵の頭上に舞い上がる。

「これが俺たちの翼だ!!」

 エドの上からパンが更にジャンプし、手に持った月牙鑽でサン・クピドに切りかかる!

 一刀のもとに切り下ろす。
 サン・クピドの体が大きく割れた。

「そんな……そんな……。私の美しさが通じない男が……いるなんて」
「アディオス、お前が女だったら考えなくも無かったぜ」


 陵鷹の翼とは彼らが更なる高みに昇るための雄々しい翼。
 羽ばたいた後には栄光を掴む。





 戦いは終わった。地球軍の特機と秘密基地は、わずかなサンプルだけを採取して破壊した。痛手を負ったアムステラ軍に基地を綿密に調査する余裕が無かったからだ。サン・クピドのパイロットは見つからず、特機の能力とそのルーツが解明されることは無かった。
 それでもアムステラ軍は勝利した。その立役者となったランカスター隊には多くの賛辞が送られ、エドたちの株は一段と上がった。だがそれを喜ばぬ男が一人いた。

 ネスターは特機のパイロットと開発者を取り逃がしたことが気にかかっていた。研究資料は大半が破棄されていて参考になりそうなものは少ない。また他所にデータのコピーがあれば、容易にあの特機を複製できるかもしれない。

「もっと万全の包囲体勢を敷ければ取り逃がすこともなかったのですが」
「それは仕方ねえだろ。実際に間一髪みたいだったしな」
「隊長には借りができてしまいましたね。」
「あぁん? お前らしくない台詞言いやがるな」
「……フフッ」

 ネスターが浮かべた笑みの意外さに、エドも思わず微笑を湛える。
 言外に二人は通じ合った気がした。この勝利はエド一人でも、ネスター一人でも――パンに執事、誰かが欠けただけで成立し得なかったかもしれない。それを当然のこととし、功績に驕らず些細なことを気にかけない。
 それが“チーム”だから。

「こんなところにいましたかエド様! そろそろ病室で休んでください!」
「やべえ、見つかったか」
「戦いのせいで怪我が悪化しているのですから、さあ早く!」
「それでは私はこの辺で。まだ残務処理がありますから」
「おうネスター、そうだそうだ」

 パンに引っ張られていくエドが不意に振り返った。

「俺様のことを『隊長』って呼んだな?」

 一度立ち止まり、ネスターは言葉でなく敬礼で答え、そして歩き去っていった。

「これで一段落着きましたね……」
「そうだな」
「しばらく任務は与えられないでしょうから、その間にじっくりと療養してください」
「おっとそうは行かないぜ。ヨーロッパでは幾つも戦いの火が燻ってる。ボヤボヤしてたら乗り遅れるぜ」

 すぐにこれだ。だがその方がエドらしいとパンは思う。

「この戦勝で、また一つフランダル様にお話しすることが増えました」
「叔父貴も退屈してるだろうから、こりゃいいな」
「そうそう、師匠がエド様に」
「あのオッサンが……?」
「中々やるじゃないか、と」
「フン、あいつも俺様を認める気になったかな」

 すでに認めるところは認めていたかもしれないが。だからこそエドとの戦いで手を抜かなかったのだから。
 そしてもっと、彼らには互いのことを知ってもらいたい。これが私の仕える方だ。そして、これが私の師匠だ、ということを。
 病室までエドに肩を貸しながらパンは願う。







「惚れたわ……。何時の日かあの殿方を魅了してみせるわよ!」

 逃走しながらマッコインは夜空に誓った。



<続く>





【サン・クピド】
国連開発機構のマッコイン博士が開発した試作スーパーロボット。
各国のスーパーロボットと比べ特異で、固定兵装は両腕の近接防御用マシンキャノンのみ。
本機の最大の特徴は、精神感応技術を応用した新兵器『テンプテーション・ウェーブ』である。
精神感応増幅器である背中のバインダーからサイキックウェーブを放射し、
敵兵士の精神に直接干渉・攻撃するという能力を持つ。
この能力は出力を調整すれば味方への士気高揚効果が得られ、効果範囲は最大数キロメートル先まで及ぶ。
その高度な技術が何処からもたらされた物なのかは現在不明。