影の死闘・暁の戦闘〜その5〜



新たなる敵の登場に、身構えるエイジアン隊。キリイ機は胸元に開いた大穴をものともせず大鉈を構え、ロルフ機は左手のナイフでルルミー機を牽制しつつ、右手のマシンガンを妖爪鬼に向ける。そしてライナー機も、遠方から徹甲銃の狙いを定める。
だが、その対応に不満を抱く者も居た。それは・・・

「邪魔するんじゃねぇ! たかがメインカメラをやられただけだ!」
「メカというものは一部が壊れたからといって・・・全てがダメになるというものでは無い!
1%の正常な部分を使用して、100%の力を出す事もできる!!」

そう、レンヤ隊の2人が抗議したのである。しかし、影狼隊隊長は冷静に切り返す。

「肉眼の目視で闘う気か。だがな、勝てたにしてもお前達もタダでは済むまい?! 今、必ず倒さねばならん相手では無い。退き際を誤るな」
「・・・何故だ? 見た処、その機体は闇の中において最大の性能を発揮するはず。わざわざ光の中に出て来るとはな・・・」

そう呟く様に問いかけるエイジアン隊隊長・ロルフ。別に答えを期待している訳では無いのだが、妖爪鬼があまりにも無造作に登場した事に対して、
疑惑を抱いたのである。もちろん、そう問いつつも右手のマシンガンは妖爪鬼を撃ち抜ける様、確実に狙いを付けて居る。

「その認識は当たって居る・・・が、半分だけだ。闇は、如何なる場所にも存在する!」

その叫びと共に、妖爪鬼のボディから転がり落ちる数個の黒い塊。それを見たロルフの顔が強張るのと同時に、眩い光が周囲の光景を覆う。

「対閃光防御っ!」 防眩ゴーグルを下げつつ目を閉じたロルフが、マシンガンの引き金を引きつつ叫ぶ。
「…っ!」 左腕で目隠ししたキリイは、前に踏み出しつつ大鉈を斬り降ろす。
「くそっ!」 目が眩んだ状態だが、ライナーの徹甲銃は狙った場所−妖爪鬼の腹−を的確に撃ち抜く様に発射される。
「「うぉ! まぶしっ!!」」 レンヤとルルミーの声が木霊する。

カッ! バシュッ! ガッ! ザスッ! ガッ! ズガァッ!

閃光という『闇』が消えた後に居たのは・・・3機?! 黎明とルルミー機の姿が無い!
右手首に電磁針が突き刺さったロルフ機はマシンガンを取り落として居り、キリイ機は右膝を膝裏から抉られて転倒している。
妖爪鬼は・・・仰向けに倒れた姿勢から、長い蛇腕を器用に使って立ち上がる。胸板を縦に走る傷は、徹甲銃の銃痕か。
では、黎明とルルミー機は何処に居る?! ・・・上空だ! 2機は、禍風の腕に掴まれて高速で上昇中であった。

「・・・ったくよ。無視界飛行なんてぇ芸当は寿命が縮むんだぜ・・・」

黎明とルルミー機を落とさない様にしつつ、禍風を操縦するバドスがぼやく。
閃光弾が炸裂するのと同時に上空から急降下した禍風は、予め位置確認していた黎明とルルミー機を引っ掴んで急上昇したのである。
これは、瞬間停止も可能なほど強力な重力制御装置を装備した禍風と、バドスの絶妙な操縦技術があるからこそ、出来る芸当である。

そして、彼らの離脱を確認した妖爪鬼は河辺へ駆け寄る。先ほど、無人羅甲部隊を輸送した潜水艇が待機している場所である。
羅甲部隊が全滅したにも関わらず、静かに待機する潜水艇。ライナー機の視界が定まらない今こそが脱出のチャンスであるが、妖爪鬼は動かない。
無言で無人潜水艇に指令を送り、潜水艇は一隻ずつ潜行していく・・・

ズバァンッ!! 「・・・やはり、な」

突然、潜水艇が連鎖して爆発したにも関わらず、冷静に呟く隊長。
それは、フォーゲルスベルクの仕業だった。左足を失い、応急処置で浸水を止めたフォーゲルスベルクだったが、水中の移動ならば脚は必要無い。
密かに潜水艇に近づき、機雷を仕掛けて居たのである。
水中にはフォーゲルスベルクが潜み、地上では閃光から回復したライナー機が徹甲銃を構える。ロルフ機も左手でマシンガンを拾い、近づいて来る。

「少しばかりマズい状況だな・・・だが」

この危機に直面しつつも不敵に呟く隊長。その自信ありげな言葉を裏付ける様に上空から迫る風切り音。
黎明とルルミー機を上空の僚機に預けた禍風が、再び戻って来たのである。
高々とジャンプすると同時に、長い腕を伸ばして禍風の腕を掴む妖爪鬼。禍風はロルフ機を避け、ライナー機の頭上を取る様に上昇してゆく。
ライナー機は徹甲銃を真上に向けて構えるが、急速に近づく塊を見るのとロルフの叫びが同時。

「避けろっ!」

妖爪鬼が、自らの下半身を切り離したのである。ライナー機がその塊から離れて伏せた次の瞬間、それは爆発した。
そして、地上を覆う爆煙が風に吹き散らされた時にはもう、空中に残る敵影は皆無であった・・・。

戻る  TO BE CONTINUED・・・