影の死闘・暁の戦闘〜その3〜



〜夜明け。某所・ドイツ軍基地〜

基地の向こうで30機の無人羅甲部隊が整然と陣形を組んで居る頃。フォーゲルスベルクは危機に陥って居た。
雲殻が放つ轟雷砲。偏鏡符で反射されたその高出力ビームは、射撃位置を変えつつフォーゲルスベルクを襲う。2門単発の攻撃とはいえ、攻撃方向が
読めない状況で、必殺の攻撃を避け続けるのは至難の業である。しかもその本体(=雲殻)の位置は遠すぎて反撃不能。

「と、なると。私が打てる手は一つか」
「仲間の仇を討たせて貰う! いつまでも避けられると思うなっ!!」

斜めに迸る光の槍を避け、フォーゲルスベルクが基地から出て河に向かった瞬間! その目の前に円錐状の光のピラミッドが立つ。
最大出力で放った轟雷砲を、偏鏡符で拡散反射したのである。威力は低下するが、それでも直撃すれば装甲を灼き、足留めするには充分な破壊力!

「っ!!」

ウォルフの判断力がフォーゲルスベルクを救った。このままでは、円錐状の光を浴びて灼かれるだろう。
そこで、身を翻して避けるのと同時にスモークディスチャージャーで煙幕を張り、散開したシュバルツカッツェ全てから最大出力で妨害電波作動!

「・・・しまった! 奴は何処だ?!」

偏鏡符から送られる位置情報で攻撃を仕掛けて居た雲殻にとって、『眼』と『腕』を失うのは痛い。事実、妨害電波の圏内に居た2〜3基の偏鏡符に
指示が送れないので、それらを使う事が出来なくなってしまった。

「くそっ!」

それでも、残る偏鏡符を使って盲撃ちで攻撃を仕掛ける。如何に盲撃ちだろうが、攻撃範囲の広い拡散ビームと一撃必殺の収束ビームでの攻撃だ。
それら全てを、自らの視界も遮った状態で避けるのは困難。煙幕の中が一瞬光ったかと思うと、程無く重たい物がドボンと落ちる水音がした。

煙幕が風で散らされた後には・・・焼け焦げて千切れた緑色の左足が残って居た。

「浸水は止めたが・・・これ以上は動けない、な・・・」
「くっ、逃げられたか。水中ではビームが届かない・・・後一息と言うのに!」

ウォルフが冷静に被害状況を判断してる頃、上空でルカスは歯噛みして悔しがって居た。そこへ隊長から連絡が入る。

「ルカス、お前も退け。雲殻の機動力では、今が引き際だ」
「し、しかし隊長! 奴に止めを刺さなければ・・・」
「いや。奴が水中に居る限り、雲殻では無理だ。蒼鱗があれば良かったが、今回はそこまで手配出来なかったからな」
「ですが、2人も殺られたんですよ!」
「判って居る。だが、我等の目的は任務を達成する事のみ。これ以上、無益に残る事は許さん。退け」
「・・・了解・・・です」「じゃ、隊長ぉ〜。俺も退いて良いんですかぃ?!」
「バドス、お前は残れ。禍風には後で一仕事して貰わねばならん」
「やぁ〜れやれ。まぁ〜た面倒臭ぇ機動をさせる訳ですかぃ」

雲殻は撤退した。しかしフォーゲルスベルクにはもう、戦闘力は残って居ない。
ドイツ軍基地も、たとえ目覚めた者が居たにせよ、その主要機能は既に破壊されて居る。

すなはち、30機の無人羅甲部隊を阻止する者は無い・・・のか?! 否!

ボハッ!・・・ガギャアァンッ!!

突然、一機の羅甲が吹き飛ぶ。何処からか来た銃弾が、背中からその分厚い胸板までを貫いたのだ!
振り向いた羅甲部隊の一機が、今度は盾にした左腕をも貫通した銃弾で、頭まで吹き飛ばされる。

「こいつは貴様らの装甲を研究して・・・秘密裏に軍部で開発された徹甲銃だ」

振り向いた羅甲部隊が見つめる先に居るのは・・・肩に竜胆の花を意匠とした紋様がある、3機の青い機体。
同型機だが各々の武装は異なり、一機は長大な銃を手にして居る。先ほど羅甲を撃ち抜いた銃弾は、この銃から発射されたものの様だ。

「貫通力は最高だぜぇ、アムステラのザコ共よぉ!」

轟音と共にまた一機、羅甲が吹き飛ぶ。
この機体は特殊汎用兵器・8型。そして彼は、その実働部隊第一号『エイジアン隊』所属・ライナー=ブリスゲン少尉。射撃の名手である。

羅甲部隊はマシンガンを構えるが、その前に立ち塞がる機体!
右手に肉厚の剣−いや、鉈と言った方が良いか−を持ち、左手には全身を隠せる程の大きな盾を持つ。
重火器がある時代にこんな装備では、時代錯誤な感もするだろう。
しかし。剣を持ち、盾を構える事の出来る腕−すなはち、スーパーロボットの存在は、従来の戦闘の概念を変えたのである!

その証拠に、ライナー機への攻撃をその大きな盾で食い止めた機体が疾駆し、白熱大鉈−ヒートマシェット−でマシンガンごと羅甲を両断する。
懐に飛び込めば、銃よりも白兵戦武器の方が威力を発揮するのだ!

彼の名はキリイ=アカザキ中尉。『エイジアン隊』所属の寡黙なるパイロット。だが、その実力は折り紙付きである。

キリイ機が斬り込み、その隙を狙おうとする羅甲をライナー機の徹甲弾が撃ち抜く。しかし徹甲銃は単発。如何に威力があろうとも、複数体相手には
どうしても後手に回る。

ズガガッガガガガッ!!

それ故に、彼が居る。『エイジアン隊』隊長・ロルフ=ローゼンバーグ少佐。二挺のマシンガンを構えたロルフ機は、戦局を見据えつつ部下に指示。
彼自身は部下達が撃ち漏らした敵を牽制する。

この『スリーマンセル』と呼ばれる連携攻撃によって、『エイジアン隊』は貫く牙と切り裂く爪を持つ一個の魔獣と化すのである。
その魔獣の前では、羅甲部隊と言えども烏合の衆に過ぎない。瞬く間にその数を減じて行く。

そして、離れた位置でその光景を見つつ、歓喜の笑いを漏らす男が一人・・・

「フッ、フフフ・・・確かに『俺向き』の獲物だな!」
「アスパラっ! あたしの取り分も忘れるんじゃないよ!」
「って、お前。ちょっと待て・・・武器は?」
「棒! そしてこの五体が武器!」
「・・・お前なぁ〜、対人戦とは違うんだぞ?!」

レンヤ中尉とその部下・ルルミーの掛け合い漫才(?)に割り込む様に、影狼隊の隊長が声を掛ける。

「お喋りの時間は終わりだ。そろそろ羅甲部隊が全滅するぞ」
「よしっ! 仕掛けるか!」

エイジアン隊が最後の一機となった羅甲を破壊した時。キリイ機を不気味な影が覆う。それは、朝焼けを背にして仁王立ちした羅甲の影。
手にするのは巨大な金棒。紫とオレンジという目立つカラーリングは、これが普通の機体では無い事を窺わせる。
そして金棒を軽々と振り上げる膂力が、その認識を裏付けする。

レンヤ中尉の黎明。それに付き従うのは、棒を持った羅甲・ルルミー機。この2機がエイジアン隊と対峙する・・・

戻る  TO BE CONTINUED・・・