影の死闘・暁の戦闘〜その2〜



〜夜明け前。某所・ドイツ軍基地〜

身長20m程の黒い人間型機体が3機、静かに基地のフェンスを飛び越える。着地時の地響きも、その重量の割には意外と柔らかい。
続いて更に3機がフェンスを飛び越え、6機は不気味に静まり返った基地の奥深くへと潜入する。

「・・・何だってあいつ等、あんなショボい囲いをわざわざ飛び越えて行くんだ?」

基地から少し離れた場所で、羅甲カスタム『黎明』に乗るレンヤ中尉がそう尋ねる。尋ねられた相手は、現在基地に潜入中の『影狼』に似た機体に乗っている。だが、禍々しい鉤爪を持つその両腕は、まるで大蛇の様にしなやかで長い。これが、影狼隊隊長の乗機『妖爪鬼』である。

「壊すと警報が鳴るかもしれん。赤外線探知などは無効化しているが、用心するに越した事は無い。今回の奇襲は情報収集が主目的だからな」
「そうかよ。それで、俺の役目は中の連中を眠らせるだけか?!」
「夜明けと共に、主力の無人羅甲部隊がこの基地を襲撃する予定になって居る・・・が、我等の見立てでは無人機だけでは歯が立たん筈だ。その時、お前達の出番が来るだろうな」
「なるほど。ただ夢魔を撃って帰るだけじゃ詰まらんと思ってたから丁度良い。で、寝てる連中はどうするんだ?」
「ヒルデガード様の意向があるのでな。我等は、無抵抗になった者を傷つけぬ方針で動いている」
「じゃあ、あいつ等をお寝んねさせたまま放って置くのか?! ご苦労なこった」
「上層部の意向に応えつつ、任務を果たす。両方こなさねばならんのが難しい処だな」

彼らがそんなやりとりをしている頃。別の基地では異変を察知した者達が居た。

「・・・あれっ? 定時連絡が無いな。でも他に警報とかは無いなぁ〜・・・機器の不具合かな?!」
「どうしました?」
「あ、ウォルフ中尉! お疲れ様です!」

ドイツ陸軍・対アムステラ特殊兵装師団所属のウォルフガング=エイベルシュタイン中尉。その乗機『フォーゲルスベルク』はゲリラ戦に特化したスーパーロボットである。彼がたまたま今夜の当直だったのは、ドイツ軍にとっては幸いだった。
程無く、問題の基地に連絡不能である事が判明。小規模とはいえ、一つの基地が制圧された(?)らしい事に、彼らの顔が緊張する。

「・・・一刻の猶予も無い。私はフォーゲルスベルクで出る! 君はエイジアン隊への連絡を頼む!」
「了解っ!」

ドイツ軍にとって幸いだった事がもう一点。この近くを流れる河が、問題の基地のすぐ脇まで流れて居るという事である。
水中戦も可能なフォーゲルスベルクならば、潜水したまま高速で目標地点の近くへと移動し、地上から発見されず接近する事が可能!
これは地球側のスーパーロボットの中でも、高性能な隠密機であるフォーゲルスベルクだからこそ可能な芸当である。

そして数分後・・・フォーゲルスベルクは河の中から、潜望鏡で問題の基地を偵察していた。

「・・・敵は4〜5機、か?! 視認が難しいな。『シュバルツカッツェ』を出すか」

フォーゲルスベルクが放った体長50cm程の小型偵察機・シュバルツカッツェが数機、密やかに河岸から基地内へと潜入して行く。

「敵は3機2組の6機と、基地の外にも3機、か。基地機能は一部破壊されてるが、居住エリアは手付かず・・・」

超極細の有線コードから伝わるシュバルツカッツェが得た情報を基に状況判断。ウォルフは、ゲリラ戦で敵の数を減らす事に決めた。
河から上がったフォーゲルスベルクは、敵のステルス機能に勝るとも劣らぬ自らの機能・光学迷彩を発動させつつ、フェンスの一角を押し倒す。
その物音を確かめに近寄って来た影狼は3機。各々が仲間の死角を補う形で周囲を警戒している。だが突然、その目の前を横切る小さな黒い影!

「?!」「!」「!」ほんの一瞬、3機全ての意識がその小さな物体に向かう。

キュドッ!「・・・グハッ!」

1機の黒い影が背中から火花を散らしながら崩折れる。残る2機が驚いて僚機の背後を見ると、薄墨色の対機動兵器用・高周波振動ナイフを構えた深緑色の機体が、闇の中に溶け込んで行く処だった。

「・・・っ! 双牙封殺!」「二式っ!」

しかし、流石は特殊部隊。立ち直りが早い。各種状況に対応した陣形を取る事で、それ以上の付け入る隙を与えなかったのだ。
2機が左右に分かれて互いの背を追いつつ旋回し、フォーゲルスベルクが居た空間を包囲。その左手から円の内側に向かって『鉄砂塵』を放つ。
この帯磁微細鉄粉・鉄砂塵が機体の駆動部に入り込めば、その機体の機能は大幅に低下する。
しかしフォーゲルスベルクと影狼は、いずれも気密性の高い機体。至近距離からの直撃でも無い限り、鉄砂塵の影響を受ける事は無い。もっとも、機体自体は影響を受けないが・・・機体表面に付着した鉄粉が、光学迷彩の効果を薄れさせてしまった。

「双牙四式!」「殺っ!」

旋回する影狼の右腕から伸びた伸縮性の電磁棍が、一方は胸元を、もう一方は腰を薙ぐ様にフォーゲルスベルクを襲う。
この危機に対してフォーゲルスベルクが取った行動は。スーパーロボットでは普通、考えつかない行動だった。何と、伏せたのだ!
しかも伏せつつ薙いだ高周波振動ナイフが、正面に来た影狼の脛を斬り飛ばす!

ズガシャアッッ!

脚を斬られた影狼はそのまま転倒。もう一機が棒状にした電磁棍で突きを放つのと、前転したフォーゲルスベルクが後ろ殴りにナイフを投げたのがほぼ同時! フォーゲルスベルクの首筋を打とうとした棍が力なく垂れ下がり、胸元に深々とナイフが埋まった影狼が倒れる。

そして、ナイフを回収したフォーゲルスベルクが急いで移動しようとした時、シュバルツカッツェが上空に小さな物体が浮かんで居るのを捉える。
「何だ?」と思う間も無く咄嗟に回避行動を取った瞬間! 今までフォーゲルスベルクが居た空間を、光の槍が貫いた!

「伏兵かっ?!」

暁の空を一瞬切り裂く二条の光線が、中空で折れ曲がりながらフォーゲルスベルクを狙って放たれる。
上空で待機していた空戦型砲撃機『雲殻』が、攻撃を開始したのである!

「シャッコーとユーインが殺られた! この機も脚部破損。今、ルカスが敵を牽制している!」
「影狼隊、全機撤退! イムシィを回収、残機は『骸破』で爆破! ルカス、敵を遠ざけろ!」
「「「「了解!」」」」「了解ですっ!」

「・・・敵か? 俺の出番だな!」
「いや、そろそろ夜明けだ。間も無く無人羅甲部隊が到着するだろう。我等の情報が正しければ、お前向きの敵はその後に現れる筈だ」
「俺向きの、だと?!」
「そうだ。今の敵は奴らが『フォーゲルスベルク』と呼ぶ機体の筈。我等と同じで特殊戦機だからな。傭兵だったお前には判るだろう?!」
「・・・フンッ、特殊戦機への対処法ぐらいは知ってるぜ」
「そうかな? だが、どちらにせよ時間切れだ」

妖爪鬼の長い腕が指差した先では。数機の潜水輸送艇が浮上して、羅甲部隊を吐き出していた。その機体数30機!
それが一糸乱れぬ隊形を取り、無力化した基地を攻略しようとしている。

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